2016年12月5日月曜日

村上春樹『羊をめぐる冒険』

村上春樹の短編「ドライブ・マイ・カー」で「(みさきは)小さく短く息をつき、火のついた煙草をそのまま窓の外に弾いて捨てた。たぶん中頓別町ではみんなが普通にやっていることなのだろう」という一節があり、これに対し中頓別町の町議が抗議した。その結果、後日単行本として出版されるにあたり、村上は中頓別町を上十二滝町に改めている(そのことは単行本の「まえがき」に書かれている)。上十二滝という集落は『羊をめぐる冒険』に登場する架空の地名だ。
ひょんなことから思い出し、もういちど羊をめぐる冒険を冒険してみようと読み直す。
十二滝町の開拓史が描かれている。まるで実在していた集落のように。
村上ファンが突きとめたところによると十二滝町は旭川から塩狩峠を越えた美深町ではないかと言われている。中頓別町はそこからさらに北にある。
1988年。11月末から12月にかけてはじめて北海道を旅した。
最初に勤めた会社を辞めて、一ヵ月まるまるすることがなくなったのだ。寝台特急で札幌に出て、釧路、根室をまわった。まだ雪深い時期でもなかったし、太平洋側だったのでさほどの積雪もなかった。ただ西高東低の気圧配置が強まると身体を切り裂くような季節風が吹いた。
根室から会社に電話をすると(退社手続きの関係で12月になったらいちど電話をよこせといわれていた)、名古屋で打ち合わせがあるからすぐに帰って来いという。帯広で一泊して、翌日札幌からふたたび寝台特急に乗って帰京した。
もし時間が許せば、上十二滝町を訪ねてみたかもしれない。もちろんそんな架空の町がどこにあったかなんて知る由もなかったけれど。
札幌にはほとんど滞在しなかった。ドルフィンホテルを探そうともしなかった。村上春樹の不思議な冒険の出発点ともいうべきこの本を読んだのが(僕のメモによると)84年8月。その後社会人になり、転職しようとしていた。『羊をめぐる冒険』はその間、すっかり僕の記憶のかなたにあった。

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