2014年7月23日水曜日

吉村昭『遠い日の戦争』

3~4年ほど前、近隣の小学校の建て替え工事がはじまり、その頃からわが家の庭にヒキガエルが棲みつくようになった。
これはあくまで推測の域を出ないが、小学校の池に棲んでいたカエルが行き場所を失い、バス通りをわたって引っ越ししてきたのだろう。こればかりは誰にたしかめるわけにもいかないので、勝手に思い込んだままにしている。わが家に池があるわけでもなく、カエルが棲むにはさぞ不便だろうと思うのだが、なぜだか居ついてしまった。住み心地がよかったのかも知れない。もちろんこれも推測の域を出ない。
カエルがいようがいまいが普段どおりの生活を送るぶんには不自由はない。柱をかじるわけでもなく、ひと晩じゅう鳴きつづけるわけでもない。いつもは草の陰にいて、おそらくは虫でもつかまえては食べでもしているのだろう。いたって目立たぬ人生(蛙生)を送っている。
ところが雨が降ったりすると活発に動きまわる。そんなタイミングで長女が帰宅したときは大騒ぎになる。長女は梨木香歩を愛読するわりには生き物に対する想像力に欠けている。こっちも驚くだろうが、向こうも驚いているであろうことがわからない。わかろうともしない。
その昔、米軍がB29で日本の各地を爆撃した。そのうちの何機か日本の対空砲に撃ち落され、その搭乗員は捕虜になった。終戦間近の空爆の標的は軍事基地や軍需工場ではなく、無差別爆撃だったという。日本軍はそんな一般市民をまきこんだB29の搭乗員を処刑した。それも斬首という恐ろしい手段で。その処刑に関わった者たちはB・C級戦争犯罪人として連合軍にとらえられ、裁判にかけられ、その多くが処刑された。
このカエルもおそらくは米兵処刑に関わったのだろう。名前を変えて、逮捕からのがれるためにわが家に逃亡してきたのだ。
吉村昭の『遠い日の戦争』では米兵捕虜を処刑した清原琢也は逃亡の末とらえられ、戦犯として断罪される。
戦争を知らない子どもたちは、終戦後もずっと尾を引いた戦争犯罪というもうひとつの戦争をこの本で知った。

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