2006年4月11日火曜日

藤原てい『流れる星は生きている』

藤原正彦『祖国とは国語』の流れで読んだ一冊。
著者が満州から本土へ帰る終戦間際からの記述が本書だ。
よく学校の先生や会社の上司に満州生まれという人がいたが、本土に帰ったときの話をくわしく聞いたおぼえがあまりない。当の本人が小さかったせいかもしれないし、忘れてしまったのかもしれない。あるいは口にしたくないほどの経験だったのかもしれない。おそらく多くの日本人が貨物列車に乗せられ、恵まれていさえすれば牛車で、そうでなければ夜を徹して徒歩で山を越え、川を渡り、ようやくたどりついたプサンから帰還船で祖国日本に命からがら戻ったのだろう。
あるいはかつて聞いたことのあるこの苦難の道のりをこともあろうか僕自身が忘れ去っているのかもしれない。もしそうだとしたらこいつがいちばんよくない。この本を手にしたきっかけは歴史認識のためでもなく、興味本位でもなく、純粋に忘れてはいけないことの再認識である。
ぼくの義父はシベリアから帰還したという。孫であるぼくの子どもたちにとって戦後祖国の土を踏みしめた祖父の経験はたぶんいちばん身近な歴史体験なのではないかと思う。戦争を語り継いでいくためにぼくらができることはこういう本を読み伝えていくことしかないんじゃないだろうか。


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